社会事象で変化する、企業を取り巻く「世論」

社会情報大学院大学 教授 白井 邦芳

海外のテロ事件や米大統領選の行方、英国のEU離脱などの事象は必ずしも「対岸の火事」ではない。情報は瞬時に世界を駆け巡り、我々の生活や企業活動にも影響を与えつつある。「情報戦」に広報はどう対応すべきか。

絶えず情報収集と共有の姿勢を


ソーシャルメディアが発達していなかったころには、情報をいち早く入手し活用することが企業の戦略上、きわめて重要な時期があった。風評の拡散を予測し、事前に手を打つだけではなく、場合によってはエスピオナージ(諜報活動)などで得られた機密情報がスピンドクター(情報操作のプロ)の手により絶妙に「調理」され、瞬時に鎮圧されるか、ライバル会社にそれ以上の打撃を与える情報が突然沸き上がるといった怪奇現象まで発生した。まさに「情報戦」である。その過程で何らかの当事者による緻密な交渉が含まれており、結果として正確な事実関係が外部につまびらかにされないまま煙がもやもやと消えるように消滅した事態も少なからず存在していたと思う。

しかし昨今は、一般人でさえ耳をふさぎたくなる悲惨な事件や関心のない事実についても、否応なく、かつ容赦なくあらゆる媒体からリアルタイムで入手できる状況に至っている。情報に乗り遅れることへの恐れや疎外感に伴い、各個人は行く先を考えずに開いた扉に飛び込んでしまうという集団行動に陥っている。乗った瞬間に走る方向は決まっており、自分が決めたというより乗ったらその方向に走っていた、というような現象が見受けられる。

少し前までは、好イメージで始まったイベントの論調は基本的には変化せず、最初の段階で大勢が決まることが多かったが、最近は論調を最後まで予想することは難しい。情報に色をつけようとするプロ集団がいる半面、情報を丸裸にして色を付け直すか透明にしようと試みる人がいつでも登場できる機会をソーシャルメディアが与えてしまったからだ。正しい情報が多くの人に共有されること自体は決して悪くはないが、誤認や意図的に偽りの情報が流れても、それを認識できず間違った論調が形成されることは残念と言わざるを得ない。この種の世論形成は、どちらかというと中立的な立場をとらず、「白」か「黒」を選ばせる「踏み絵」のような図式をとることが多いため、偏重的なバイアスがかかりやすい。

海外で発生したテロや英国EU離脱、米国大統領選など、これまであまり関心をもたれなかった海外での事態が一度注目を浴びるとソーシャルメディアで一気に拡散、マスコミも煽るように報道を繰り返す。最近では世界のニュースはネットから発信されるといっても過言ではなくなった。

どのようなキーワードが企業の風評に結びつくかを予測することは容易ではないが、少なくとも情報を収集し、企業を取り巻く周辺環境で懸念となるネガティブ情報が発生した場合の対処方法は、社内で事前に取り決めておく必要があろう。特に、かつて言われていた「(2ちゃんねるなどの)噂・憶測にはコメントしない」という放置対応は時代遅れであり、顔の見えない無数のネットユーザーに対して正確な情報提供を通じて適切な理解を促す対応が期待されている。その場合の戦略は「説得」ではなく「情報の共有」であり、相手が判断した過程で不足している情報を分析・提供し、誤認をさりげなく気づかせることに他ならない。