評判づくりを支援する顧客との関係構築

社会情報大学院大学 客員教授 池田紀行

SNSの普及がもたらした「消費者主権」の時代。 ブランドマーケティングでもPRによる評判形成の視点が欠かせない。 一方で、やり方によっては顧客との「熱狂的な信頼関係」の構築も可能になった。

レピュテーション形成の重要性増す


「買おうと思っていたけど、ネットの口コミを見て買うのをやめた」──。そんな経験を持つ人は多いだろう。「失敗したくない心理」が拡大し、近年の消費者は、買う前に、行く前に、食べる前に、とにかく徹底的に口コミを見る。いわば「ポジティブメッセージ100%で塗り固められた“広告”」への反乱と言えるだろう。

日本のマーケティング研究の第一人者である早稲田大学商学学術院長兼商学部長の恩藏直人氏は、ソーシャルメディア時代においてブランドが形成されるためには3つのR、つまりRelevance(自分ごと化)、Relationship(関係構築)、Reputation(評判形成)を意識した「R3コミュニケーション」が重要だと説いている。いくら企業が多額の予算を投じて「うちのブランドはここが素晴らしいですよ!」と広告を打っても、消費者にとって意味や価値のあるブランドであることが認識されていなければ意味をなさない。ブランドと顧客の関係が適切に設計されているかどうか、適切な評判が形成されているかによって、ブランド価値は大きく左右されるというわけだ

ブランドは、消費者の頭(認識)の数だけ存在する。認識(ブランドのパーセプション)は、企業から発信された情報だけでなく、既存顧客とブランドとの関係、そして、その既存顧客から新規(潜在)顧客への口コミによって大きく影響を受ける。テレビや雑誌でどんなにきらびやかな広告を出していても、自分の周りの友人や同僚がそのブランドのことをこき下ろしていれば、それがあなたの「認識」としてセットされてしまう。ソーシャルメディア時代のブランドマーケティングは、かつてないほど、レピュテーションマネジメントが問われる時代になったと言えるだろう。

イギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、平均約150人(100~230人)が「それぞれと安定した関係を維持できる個体数の認知的上限」であると述べている。有名なダンバー数の定説だ。ソーシャルメディア普及前、一般の生活者が持つ情報発信力は弱かった。良い口コミも、悪い口コミも、伝播力は限定的だったわけだ。そのため、企業はそこまで口コミを重視する必要がなかったといえる。しかし、インターネット、特にソーシャルメディアの普及は、人類の「話す」という口コミに「書く」という新たな1ページを刻んだ。特定少数にしか伝わらない、記録が残らない、という時代から、不特定多数に見られる・広がる、そしてその記録が半永久的に残る、という消費者主権の時代へ移行したのである。

だからこそ、これからのマーケティングコミュニケーションは、マスメディア、ネットメディア、ソーシャルメディアなどのメディアの垣根を越え、そして広告・広報・販促といった手法の垣根も越え、メディアニュートラル、手法ニュートラルで設計されなければならない。メディアも手法も手段である。ゴールは、商品やサービスを買ってもらいたい相手の自分ごと化を促進し、買い続けてもらいたい既存顧客と熱狂的な信頼関係をつくり、良質な評判が社会に広がっていくブランドパートナーを育てることである。