世界中の社員一人ひとりの行動が「尊敬されるサービス・ブランド」を築く

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル 副社長 広報 エディ操氏


日本でも100年の歴史を持つアメリカン・エキスプレス。創業時からの理念を大切にしながら、より親しまれるブランドを目指し発信を強化している。広報を担当するエディ操副社長に、近年の取り組みについて聞いた。


アメリカン・エキスプレス・インターナショナル 副社長 広報
エディ操(えでぃ・みさお)氏
外資系のPR会社、航空会社のマーケティング責任者を経て、2007年アメリカン・エキスプレス入社。メディア対応や社内広報を含む広報活動全般および社会貢献活動を統括する。2013年から現職。現在は、分野によっては日本以外にアジア23カ国・地域の広報業務も担当している。

[聞き手]
社会情報大学院大学 学長 上野 征洋(うえの・ゆきひろ)

日本広報学会副会長、静岡文化芸術大学名誉教授。2012年、事業構想大学院大学副学長を経て現職。内閣府、国土交通省、農林水産省などの委員を歴任。早稲田大学卒、東京大学新聞研究所(現・大学院情報学環・学際情報学府教育部)修了。

社会貢献に積極的な会社


上野日本でビジネスを始めて今年で100周年と伺いました。日本の社会や日本人の生活に深く根差したグローバルブランドといえますね。

エディ:ありがとうございます。アメリカン・エキスプレス(アメックス)は、アメリカでゴールドラッシュが始まった1850年に急行便の会社として創業しました。当時は荷物の運搬中に強盗に遭ったり、台風の被害に遭ったりといったことも少なくなかったようですが、お預かりしたものに対して100%保証することでお客さまの信頼を得て成長してきました。

時代とともに、郵便為替、旅行サービス、そしてクレジットカードなど、取り扱うものはお客さまの求めに応じて変わりましたが、常に根底にあるのは、世界で最も尊敬されるサービス・ブランドでありたいというビジョンです。もしかしたら、将来は今お使いいただいているようなクレジットカードはなくなっているかもしれません。たとえそうなっても、きっと当社はお客さまが求めるものを提供しているだろうと思います。

上野:代表的な国際カードブランドはいくつもありますが、アメックスにはどんな特色がありますか。

エディ:ビジネスモデルで比べると、クレジットカードを発行している発行会社と、カード発行会社と提携して決済ネットワークを提供している会社とに分けることができます。当社は両方の業務を展開しています。

それゆえ、カード会員と直接つながっているのが特徴で、今どのようなお店が人気なのか、個々の会員がどのような志向性を持たれているのかといったデータが日々集まってきます。今後、ビッグデータを使ってお客さま一人ひとりのニーズに応えるサービスをするうえで、大変有利なビジネスモデルだと考えています。

上野:「世界で最も尊敬されるサービス・ブランドになる」というビジョンを、社内外で理解してもらうために、どんな取り組みをしていますか。

エディ:このビジョンを実現するためにはどうあるべきか。それを、具体的に8つの基本理念に落とし込み、社員への浸透を図っています。まず、「顧客の立場を最優先」すること。2つ目は「あくなきクオリティーの追求」。以下、「倫理的・道徳的行動」「チームワーク」「社員に対する敬意と尊重」「社会に貢献する良き市民」「勝利への強い意思」「個人としてのアカウンタビリティー」です。

広報部門もこの基本理念を軸に活動しています。特に、社会貢献活動には積極的に取り組んでいます。明日へのリーダー育成、多様な文化遺産の保護・修復、地域社会への貢献という、3つのテーマを掲げて、ニューヨークにあるアメリカン・エキスプレス財団を通じてグローバルに展開しています。特に日本では近年、リーダー育成に力を入れています

日本フィランソロピー協会と共催する「リーダーシップ・アカデミー」ではNPOの次世代リーダーの方々に、組織を率いるのに大切なリーダーシップを磨いていただき、またNPO法人ETIC.との「サービス・アカデミー」では、ソーシャルビジネスに携わる起業家の方々に、当社が長年培ってきたノウハウを共有し、ご自身のビジネスをサービスという観点から学んでいただいています。

2017年5月に福岡市で開催した「アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミー2017」。西日本を中心に活動しているNPOから31人が集まり、次世代リーダーの育成プログラムが実施された。

日本市場の潜在性は高い


上野:そのような社会貢献活動が、社員の皆さんの血となり肉となって、現場のサービスを通して顧客に実感していただくのは大事なことです。広報としては、こうした活動による価値意識を、どのように工夫して発信していますか。

エディ:そこは広報としては悩ましいところもあります。自分たちからアピールする性格のものではなく、お客さまがブランドを体験された結果として感じていただければと考えています

もちろん、それだけでは広く理解していただくことは難しいので、昨年から日々のサービスに対する姿勢を伝えるブランド広告を展開しています。当社は現在130カ国以上の国で事業を行っています。世界のどこでも同じレベルのサービスを、いつでも提供していることを発信しています。

上野:アメックスのコミュニケーションでいえば、かつての「出かける時は忘れずに。」というキャッチフレーズや、プロゴルファーのジャック・ニクラウスのイメージが強く残っていますが、今の若い人たちには強いイメージがないように感じます。

エディ:おっしゃるとおりで、実はそうしたブランドコミュニケーションをしばらく行っていませんでした。現在、一般消費支出に占めるクレジットカード決済の割合は、アメリカで50%くらいありますが、日本はまだ20%に満たない状況です。

その分伸びしろも大きいといえます。日本は他国に比べると「現金主義」の傾向が根強いといわれています。ですが、日本では今、経産省が2020年に向けて、キャッシュレス・ソサエティを目標に、カード決済の整備に力を入れています。またオンラインショッピングの増加や、モバイルを活用した新たな決済サービスが日本でも始まるなど、若い世代では、クレジットカード決済に対する意識が変わっているように思います。

上野:まさにチャンス到来ですね。

エディ:ただ、これまでアメックスは、富裕層向けのカードというイメージを持たれていました。カードの使い道はクレジット決済だけではありません。アメックスはサービス重視のカードであり、付帯サービスに独自性があることをご理解いただき、日本の方々にも我々の提供するサービスを使いこなしていただきたい。昨年から展開しているブランド広告キャンペーンには、そんな意図を込めています。

現在の広告にはかつてのようなセレブリティは登場しません。軽快なアニメーションに乗せて、当社がお客さまに提供する価値をお伝えしています。

インターナルコミュニケーションにも力を入れています。広報部では毎週1本、社員に向けた映像を制作して、様々な情報を発信しています。各事業部門の社員がキャスターになって原稿を読み上げるニュース番組風の構成で、他の部署がどのような業務を行っているかを共有するようにしています。

2016年から展開しているブランド広告のビジュアル。広告では、手荷物の無料宅配から、空港ラウンジの利用、現地での24時間日本語サポートまで、旅行を快適にするアメックスのサービスを紹介している。

有事にこそ頼られる企業へ


上野:観光の歴史についての展示会で、昭和の初期にアメックス横浜オフィスが外国人観光客の受け入れに先導的な役割を果たしたという説明を見たことがあります。長い歴史の中では様々なストーリーがありそうですね。

エディ:日本で100周年ということもあり、私たちもそうした歴史を紐解き、当社のソーシャルメディアで発信しています。一例を挙げると、パリのオフィスは、トラベラーズチェックの換金やお荷物の受け取りの業務を行う一方で、ヨーロッパで暮らすアメリカ人の社交場になっていたようです。

長い歴史の中では様々なことが起きました。第一次世界大戦の時は、金融機関が閉まってしまい帰国できなくなった数千人のアメリカ人を、当社のヨーロッパオフィスが帰国の途に就かせたという記録が残っています。

東日本大震災の時には、来日されていた海外のお客さま、また被災地に暮らす日本のお客さまへコールセンターのスタッフが片っ端から連絡し、必要としている生活物資などを伺い社員自らが買いに走り、送っていました。このことには多くの感謝の声をいただきました。

上野:まさしくそこですよね。社員の皆さんのそうした行動が、世界で最も尊敬されるサービス・ブランドの裏付けになっている。それがアメックスの一番の財産だと思います。

エディ:そういう行動を社員ができるのは、マネジメントがそれをよしとしているからであり、これまでも世界中で実践した例があるからです。当社の経営陣は、「真のお客さまへの気持ちというのは、有事の時こそ分かるのだ」と、よく話します。そうした教えが、アメックスの文化として社員に浸透しているので、このような行動につながったのだと思います。

上野:貴社が本来大切にしている価値観を、会員や社外の方に分かってもらうために、広報として、どのような工夫をされていますか。

エディ:今年は100周年ということで、お客さまの声を取材させていただき、SNSで紹介する活動を始めました。

上野:日本には儒教伝来の「陰徳」と「陽徳」という概念があります。陰徳は、良いことは人知れずこっそりおこなう、他方、陽徳は社会に知らせるべし、という考え方です。貴社は外資系ですが、日本的な陰徳を尊ばれておられるようです。人知れずよいことをすれば、それが回りまわって、いつか返ってくるということでしょうか。

エディ:戻って来ることを期待しての行動ではありませんが、アメックスの価値をご理解いただいている、いいお客さまから支持をいただいています。より多くの方にその良さを知っていただけるよう、ブランドコミュニケーションやSNSを通じて、少しずつ理解を広げていきたいと思っています。

上野:今後はどのようなことに力を入れていこうとお考えですか。

エディ:私どもが長年世界中で仕事をする中で蓄積してきたサービスやノウハウが、お客さまに納得していただけるブランドの価値となっています。そのことを日本の皆さまに広くお伝えしていく。それが毎日の課題だと思っています。